忘れ形見

「詩なんて書いてるのが、なんか馬鹿らしくなっちゃった。そうだ。歌でも歌おうかな。ねぇ、そしたら聴いてくれる?」うわ言のように呟きながら彼女は塗り終えたマニキュアをしげしげと見つめ、満足そうに微笑む。外からは冬の寒さが窓の...Read more

ストッキングを引き裂いて

「必ず死んでしまうなら、私はどうして産まれて来たんだろう」って、真っ赤な目で言う。空気の張り埋めた安ホテルからは、隣の女の喘ぎ声が虚しく聞こえた。初恋が叶わなかったあのときに、本当は死んでしまったほうが良かったんじゃない...Read more

シニフィアンとシニフィエ

耐えきれなくなって口の端からこぼれた言葉を、やさしくすくってあげられる人になりたかった。うずくまって泣いているだけで、そんな風になれると思っていたの。本当は私にもそんな才能があって、今はほんの少し眠っているだけなんだって...Read more

いちにちのおわり

この町には看板や標識が多過ぎて、処理しきれない情報量に忙しくなっちゃって、大事なものを見落としてきた気がします。おまけにティッシュ配りは私に手を伸ばすから、もう頭の中は歩を進めることが精一杯で、風のせせらぎも届かくて、紅...Read more

砂の城

白い砂浜 波打ち際の砂城が浚われていく 淀みない水面が 僕をじっと見つめて 心根を見透かしたような表情で嗤った、気がした 心がむせび喘いで 抉り取られて 形を失っていく 身体を両の腕でぎゅっと抱き締めて 存在を確かめた ...Read more

43℃

浴槽の中で蛇口から垂れる水滴の音を数えていると、視界を覆う蒸気の向こう側から、肌色の宇宙人が私に話しかける。 「指先がふやけてきたよ」宇宙人は赤子を扱うかのように、丁寧で、やさしく、私に話しかける。朧気な肌色の向こう側か...Read more

透らずとも果敢なく

街路樹の下で猫が静かにくたばった。その横でCHANELの5番の香りを漂わせる眩しい女が、世界の終わりを見つけたかのように艶めかしく笑う。日陰の中でもぞもぞと這い蹲る罪悪感は、女の足元から首筋へと伸びていき、染みになって女...Read more

冷めたスープ

冷めたスープを口に入れる。喉の奥に当たった所で不味いことが分かった。もう二度と食べないと思った。 冷めたスープを口に当てる。不味いことが分かった。もう二度と食べないと決めた。 冷めたスープが私の前に置かれた。不味いことを...Read more

5021g

観客の居ない音楽会で、管楽器の音の波間に死体を埋めた。演奏中に指揮者の目を盗んで行った矮小な葬式では、CLASSICに或れない誰かの孤独が燃やされる。真っ青な光を灯して、散り散りに灰に変わって往く森羅万象が、其の熱量はも...Read more

e.g.

本質的に俺は孤独だ、と彼は言った。その言葉が癪に障った私は「あっそ。」と興味の無いふりをして、携帯を開いた。今思えば大人気ない対応をしてしまったと思うけど、正直そんなカッコつけた彼の態度には付き合い切れなかった。私はTw...Read more

ネット詩人

私が小学五年生のころ、Windows98のメモ帳に書いた小説もどきを紛失してしまった事が、今になって悔やまれる。誰にも見せることがなかった処女作。やっと年齢が二桁になったばかりの、その拙い文章に私の初期衝動が詰められてい...Read more

やくそく

山積みの書類を掻き分けて、埋もれてた婚姻届に手を伸ばす。にんまりと笑う彼女の顔を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれる。半分だけ記入されているその紙切れを眺めて、いまいち現実味のない未来に思い馳せて浮かれていた。あとは、僕...Read more

ラン・ラン・ラン

ぐにょーん、ぐにょーん、とへんな足音で歩く可愛い女の子は「えいっ」と思いのほかふつうの掛け声で、河川敷を駆け出す。 砂利道に転がった割れたガシャポンが、キラキラと夕陽を反射していて、どこにゴールがあるのか、なんていう問い...Read more

時間の

街灯が燃え尽きそうに、チカチカと不規則な点滅を繰り返していた。虫たちは居場所を探し求め煩い羽音を響かせる。 終わりを失ったかのような、どこまでも続くアスファルトの道を空っ風が伝っていき、街は大きな欠伸をした。それを待って...Read more

ごっこ遊び

可哀想と言った君の表情は、投げやりでどこも見ていなかった。みんな死んじゃえばいいと嗤った君の表情に、僕は言葉を選ぶことを迫られた。 やけに冷たい夜風が窓の隙間から暴力的に押し寄せ、君はぎゅっと布団を握る。馬鹿みたいと吐き...Read more