本質的に俺は孤独だ、と彼は言った。その言葉が癪に障った私は「あっそ。」と興味の無いふりをして、携帯を開いた。今思えば大人気ない対応をしてしまったと思うけど、正直そんなカッコつけた彼の態度には付き合い切れなかった。私はTwitterに愚痴を呟いてから、「それで、これからどうするの?」と出来る限り冷たく言い放つ。彼は「別に、なにも変われないよ。」と呟いて、俯いた。
視線の先には穴だらけの敷布団があって、その穴たちは向こう側から彼を見つめているように見えた。彼は、彼と私の関係に、何かしらの正解を求めている。そうすれば、俺はお前にとって何者かになれるんじゃないかって、意味のわからない理屈に縛られていた。きっと、退屈な毎日から逃げ出したい気持ちと、細やかな幸せの狭間で溺れている。大人になれなかった心が、そうやって体から置いてきぼりになった。

遠い記憶。
畦道で、私は彼の背中を追いかけて、走っていた。彼は何の気無しにどんどんと進んで行ってしまうから、私は追いかけることに精一杯だった。そうやって、違う歩幅でも同じ道を歩いていた頃。そういうものだと思っていた。当たり前に世界は、当たり前に廻っていくと、そう思っていた。
時間は、まるで生き物のように私の前を這っていく。でも決して休む事なく、ただ前へ。前へ。彼が岩に腰掛けて煙草を吹かしている間も、後進しても、時間は変わることなく前へ。彼と、私とは違う歩幅で。
いつ頃だろう。遠い記憶。私はいつの間にか必死に時間を追いかけていた。いつだって傷だらけの彼を置いて、私は誰の傷も、私の傷も、厭わずに追いかけていた。虫のように蠢く時間を。前へ。前へ。
正しい道を歩いた。私は。ひたすらにその正しさを、当たり前と呼ぶ。それは、彼とは違う道だったのかもしれない。前にも後ろにも、彼はもう見えないけど。
それでよかった。そう思わなければ、歩むことをやめてしまいそうだったから。遠い記憶。

「ねぇ、もし今のまま過去に戻れたら、また同じ生き方をする? 」 彼は視線を私に戻して、私をじっと見つめてそう聞いた。
「やり直したい過去ならいっぱいあるよ。」
「みんなそうだろうね。でも、過去に戻れても違う生き方をする勇気がある?意図的に違う選択肢を選べる?俺は正直出来ないかもしれない。出会うはずだった人に出会えないかもしれない、より最悪な結果を招くかもしれない、俺は俺じゃなくなるかもしれない。」
彼がこぼした言葉は、ポツリポツリと穴に吸い込まれていくようだ。
「そもそも過去になんて戻りたくない。怖い。何も分かち合えない事は、きっと何よりも孤独で、きっと今よりもずっと一人ぼっちだ。どんなにお気に入りの場面でも、同じ映像を何度も巻き戻して見させられたら、俺は世界が嫌いになりそうだ。」
彼は涙ぐんで、自分の手を真っ赤になるほど強く握っていた。なにをそこまで必死になるのか、その感覚こそ、私は分かち合えない。
彼は遠い目をして言う。
「本質的に、俺は孤独なんだよ。」

その草臥れたお決まりの台詞は、私とは違う場所で聞こえたようで、その寂しさを私は道中に置いて、前へ進んだ。

「サヨナラ。」

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