街路樹の下で猫が静かにくたばった。その横でCHANELの5番の香りを漂わせる眩しい女が、世界の終わりを見つけたかのように艶めかしく笑う。日陰の中でもぞもぞと這い蹲る罪悪感は、女の足元から首筋へと伸びていき、染みになって女の一部に変わっていった。感情のアンサンブルは影を作って、猫はその中でひっそりと鳴く。あの日の、きれいな声で鳴くんだね、って喉を撫でる記憶は何処か深い所へ沈殿していき、光の届かない場所で埋もれるだけだ。女は真っ白なシャツを隠すように真っ黒なジャケットを羽織り、苦虫を飼い慣らしたような顔で俯いて、スクランブル交差点へと歩を進め、紛れて消えた。境界線を引いて、その向こうで、女は上手く笑うのだろうか。

そんなことを考えて、俺はその見慣れた街の喧騒を眺めていた。街路樹の下で死んだままの猫も、睨むように俺を見つめている気がして、俺は目一杯の善意を振り絞って猫に近づく。

「なぁ、死ぬってのはどんな気分だ? 」
一言、猫にそう語りかけても、猫は俺がいた場所を睨みつけたまま、街路樹の下でしゃがみこむ俺を一瞥もしない。撫でようと手を伸ばしたところで、止めた。俺はきたなったらしく伸びた爪で、猫の隣に浅い穴を掘り、猫だったそれを足蹴にして落とす。ぱすっ、と軽い音がした。どうしようもなく、もうそこに命は無かった。酷く酷く惨めな気持ちが増していく。とっくに満ち足りていたコップから溢れて、ボタボタと溢れていく。目頭が熱くなっていくのを感じて、大嫌いな空を仰いだ。曇ったこの空の向こうに何かあるって云うなら、俺は絶対にそこには逝けないだろう。そんな気がした。じゃあ、猫はどこにいったんだろうな。俺にもいけるとこだったらいいな。なんとなく、そう思う。
辛うじて滲んだ変化は、暗転した心の中に拡がって、消えていく。街路樹の下で、静かに涙を溢す。そのまま落下したそれは、猫の毛並みを撫でていき、涙は土にへと溶けていった。

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