浴槽の中で蛇口から垂れる水滴の音を数えていると、視界を覆う蒸気の向こう側から、肌色の宇宙人が私に話しかける。

「指先がふやけてきたよ」宇宙人は赤子を扱うかのように、丁寧で、やさしく、私に話しかける。朧気な肌色の向こう側から、私に話しかける。

宇宙人は4本しかない指で、曇った鏡に小学生4年生のような絵を描いた。デフォルメされた可愛らしいユーフォーが、お花畑に浮かんでいる。

「鏡はつめたい」宇宙人は赤子を扱うかのように、私を小馬鹿にするかのように、そう言って笑う。

私はただ浴槽の中で、蒸気の向こう側を静かに見つめた。朧気な肌色の、宇宙人の、そのまた向こう側まで見つめる。一定の感覚で垂れていた水滴のリズムが、だんだんと遅くなっていった。?

宇宙人は指先を光らせて「ほら」と言いながら、蒸気の向こう側から指を一本こちらに向けた。たしかに指先はふやけていたのだけど、それよりも妙にひょろ長い指が単に気持ち悪くて、あまり近付けて欲しくなかったので、私は浴槽の水をぴしゃっと手で払うように、宇宙人の指先にかける。

するとホタルのようにやさしくじんわりと光っていた指先は、ジュッと熱の冷めていく音とともに、発光を終える。今、この蒸気の向こう側で、宇宙人はどんな顔をしているんだろう。

きっと人間くさい、寂しげな顔をしているんだろう。何故かそう思った。そうに違いないと思った。どうでもいいんだけど。

私は、浴槽のお湯をペロッと舐めた。なんだかクラクラした。現実味がしなかったから。

私を。

宇宙人はやさしく、赤子の手を捻るように言った。

「ずっとここで暮らそう。君のことを好きなひとは僕以外、みんな死んでしまったのだから」

湯気の向こう側で、宇宙人のシルエットがやさしく笑ったように見えた。

宇宙人はふやけた指先で、私の頬を撫でた。ひんやりと冷たかった。

ポタリと、浴槽に張った43℃に、私の37℃は、21gを残して、溶けていった。

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  1. えみ Reply

    おはようございます。
    寝てるかなぁ(^^)?

    詞、独特で引き込まれます。らびぃさんの書く文好きなんですよねぇ。
    また更新楽しみにしてます。
    それでは会社に行ってきます!

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