あの日の景色が頭の中に流れてくる。

田んぼの前で立ち尽くす雨野青の前、畦道をお爺さんが歩いてきて「ちょいとした昔話をしようか」と言った。

「そこにかかしがあるじゃろ。ありゃ昔ワシとヒロシって奴と一緒に作ったんじゃ。
最初はな、田んぼをカラスがつついてあらすからって言って、ヒロシは近所のカラスを殺して回ってたんじゃ。
黒い羽と真っ赤な血に染まった角材をガラガラと引きずって、死んだような顔でここらを徘徊していた。
近所の人たちはヒロシに悪霊が取り付いたつって怯えて、ヒロシを小屋に縛り付けたんじゃ。
縛り付けるときにワシもおってな、そのときのヒロシの表情は、本当に悪霊が取り付いたと思ったよ。
あの眼は、人もカラスも見分けのついてないように、殺気立っていて、正直わしはヒロシが少し恐かった。
だけどな、それから田んぼにやたらカラスが増えだしたんじゃ。
小屋の回りを常にカラスは飛び回ってるし、田んぼを荒らすわけでもなく、ただ田んぼを見つめるようにとまっていたりで、すこし異常だった。
近所の人たちは『ヒロシの呪いだ』って言って、小屋に供え物をするようになった。
ワシはそれは違うと思って、小屋にヒロシがいつも使ってた角材を持って行ったんじゃ。
『これでかかしを作ろう』って。
そしたらヒロシはニコッと笑って、角材を握って自分の左手をぶん殴った。
血が角材に染み込んでいく。
それを中心に2人で藁で包んでいき、あのカカシを作ったんじゃ。
それから田んぼにカラスを来なくなった。一切。」

「それからは普通に農家で働いていたけど、三年前に病気で亡くなったよ。今思えば、本当にヒロシには悪霊が取り憑いていたのかもしれんな」

そういって お爺さんはカカシをじぃっと見た。
ぼくもカカシを見ると

カカシの足元に、じんわりと血が滲んでる気がした。

This article has 1 comments

コメントを残す