「必ず死んでしまうなら、私はどうして産まれて来たんだろう」って、真っ赤な目で言う。空気の張り埋めた安ホテルからは、隣の女の喘ぎ声が虚しく聞こえた。初恋が叶わなかったあのときに、本当は死んでしまったほうが良かったんじゃないか。心が麻痺して、かさぶたを何度も剥がして、じんわりと滲む血がなんとも思えなくなった。爽やかな夏のように、一瞬で終わってしまって、寒い寒い冬が永遠に続く。身体からする腐敗臭にもう慣れてしまって、思い出せなくなった思い出が日に日に増えていく。あの日の思い出は、あの子の顔だけ黒く焦げていて、それが誰なのか、どんな声で、どんな娘だったのか、そこには何もない。

張り詰めた空気の中、ストッキングを引き裂いたら、中から元カノがこっちをじっと覗いていた。同時に胸でも引き裂けたように、女の口からボタボタと血が溢れる。元カノはそれを見てケタケタと笑った。楽しそうに、恨めしそうに、苦しそうに、ケタケタ。笑う。あの日の偶像劇は真っ赤に染まって、楽しかったことの数だけ、苦しくなる。主人公になれなかった俺たちは、あの日の残りカスだけを食んで生きてきた。それももう底をつき、心の奥底に放り込んだ思いに、触れてしまったんだ。

希望のような顔して近寄ってきた未来は、近づくほど醜さを顕わにして、ドブのような腐敗臭と共に擦り寄る。そもそも前から気に食わなかった。止まっても戻ってもくれぬそいつは、残酷に幾つもの俺を殺してはケタケタと笑う。心の奥底にこびり付いた思いを、いけしゃあしゃあと指差して笑う。少なくとも俺にとってそいつは、そういう者だった。

元カノはケタケタと笑い続ける。なにがそんなに可笑しいのかわからなかったが、妙にその笑い声には説得力があって、今の情けなさの全てを内包しているように聞こえた。血まみれのシーツの上で過去と現在が同居する。一歩一歩とまた新たな未来の足音が近付くのが聞こえて、俺は怖くなって耳を塞ぐ。そうやって三人の女は、残酷に、様々な凶器で、俺を刺したんだ。赤黒く染まったシーツは、見たことない色で。引き裂いたストッキングの切れ端が、隙間風に吹かれ、どこかに消えていった。

コメントを残す